主に千葉県における刑事弁護など


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なぜ弁護人は責任無能力を主張するか

<殺人罪被告>廷内で暴行、傷害容疑で捜査 名古屋地裁  Excite エキサイト : 社会ニュース

 殺人事件の被告人が法廷内で傷害事件を起こしたという異例の出来事.
 このこと自体は、法廷内の安全管理ということで今後問題となるでしょうが、この記事にトラックバックされたブログをよんで、弁護人の責任無能力の主張があまりにも嫌悪されているので、その点についてコメントしてみたいと思います。
 まず、責任無能力の主張の評価があまりにもよくないと感じる理由ですが、「犯行自体はやっているのに、それを責任能力というなんだかよくわからいない理由で無罪にするのは許せない」という考えが根底にあるのではないかと思います。そして、それを主張するのはいつも弁護人なので、弁護人のそのような考えはおかしいとなるのではないかと思いました.
 しかし、まず弁護人だけをやりだまにあげるのは、ちと不公平です.
 というのは、検察官は、殺人、強盗、傷害、放火などの重大犯罪に限っても、1年間で340件程度(平成8年~12年の統計)、全ての犯罪を対象とすれば600件程度を責任能力がない又は減退しているとして不起訴にしています.現段階では被疑者段階で国選弁護はありませんから、これは弁護人がついていようがいまいが、検察官が不起訴とする数字です.
 裁判で平成8年から12年で、責任無能力(心神喪失)を理由として無罪になった事件はたった8件!これは5年間の数字です.心神耗弱でも5年間で375件にしかなりません.
 つまり、弁護人が争ったとしても、およそ裁判所は心神喪失で無罪ということを認めていないのであって、検察官による不起訴の方が圧倒的に多いのです.
 検察官のこのような不起訴の事案は、マスコミの報道にあまりあがらないか、あがってきても目立たないため、皆様の不満の的にならないのではないかと思われます.
 ところで、なぜそれではあまり認められない無罪主張を弁護人がするのかといえば、弁護人というのは、「被告人のために最善を尽くすべきだ」ということを徹頭徹尾教えられているからです.だいぶ昔、弁護人が自分が担当している事件の被告人に対し、「この被告人は死刑にすべきだ。ぜんぜん情状酌量の余地はない」と考え、法廷で、堂々とそのように述べたケースがあり、この弁護人は後にその被告人から訴えられたところ、裁判所は、この弁護士のような行動は許されないとして、弁護人に損害賠償責任を認めました.
 これは、弁護士なら誰でも知っている裁判例であり、弁護士が個人的に死刑に賛成しようがしまいが、そのケースについて死刑が妥当か否かに関係なく、弁護士は、「被告人のために最善を尽くす」ことを忠実に守ろうとするのです.
 責任無能力か否かは、最終的には裁判所が判断するのであり、弁護人は可能性さえあれば主張しなければならない義務を被告人に対して負うのです。 
 今回の記事には色々ご批判もあろうかと思いますが、建設的なご意見をお待ちしております.

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by cuts | 2005-07-28 22:15 | 刑事弁護